得至蓮華蔵世界 即証真如法性身
遊煩悩林現神通 入生死薗示応化
勝林寺の周辺は、古い城下町の伝統的な町なみが多く残っており、文化庁の指定する重要伝統的建造物群保存地区となっています。その町なみ保存の活動を十年ほど前から手伝わせていただく中で、いろいろ今まで気が付かなかった、知らなかった建物の構造や技術の面白さや美しさを見させていただき、それらの貴重さを学ばせていただいています。そんな中で、最近「土蔵」の修復工事が二件ほどありました。昔はあちらこちらに見られた土蔵ですが、土壁の蔵がこの町にはもうほとんどなくなっており、土壁を修復する技術も、伝承が難しい状況になっているようです。
「蔵」は時代や場所によっていろいろな形のものがあるようですが、とにかく大切なものを蓄える場所、宝物を入れておく場所、のちの世に引き継がなければならないものを入れておく場所として、他の建物より、頑丈で、安全で、安心な建物構造になっています。「土蔵」というのは特に火災の多い木造建築群の中にあって耐熱金庫のように、周りじゅうが土壁で厚く塗られ、屋根はその上に載せているだけで、扉を閉めて鍵をかければ、周りが火事になっても中のお宝は燃えない、泥棒もちょっとやそっとでは入れない堅牢な構造になっています。
蔵は酒蔵や米蔵など、生活に大切なものを隠してしまっておく場所としての役割がありますし、正倉院のように美術工芸品を保管しているものもあります。また本のコレクションを蔵書といいますが、本の中でも特に大切な本を、表から隠して整理して蔵の中にしまっているので蔵書といいます。私も蔵書は土 蔵にしまっています。自分にとって大切な本は自分がこれまで読んできて、自分に影響を与えてきた本です。どんな賢い人でも、自分の頭の中で記憶し、思考する内容はたかが知れています。その時その時に、必要な思考や記憶を蔵書の中から引っ張り出してきてまとめ上げているのだと思います。だから私が死んでも蔵を開けてそこの本を読めば、智慧伝承はできるのだと思います。
一人の人間が生きている時間というものは短いけれど、「蔵」を持つことで、知識や思想、お金や財産、それらを含めた価値あるお宝を後の世に残していくための蔵の役割は社会にとってとても大切なものだと思うのです。しかし今、町の中から土蔵が姿を消し、その建物を修復する技術も消えそうになっていることは、とても寂しいことのように思うのです。
「得至蓮華蔵世界」(蓮華蔵の世界に至ることを得る)。私たちは阿弥陀様に一心帰命することで「蓮華蔵」の世界に至ることができると天親菩薩が言われています。「蓮華蔵世界」とは当然お浄土のことですが、ここでは、蓮華の蔵が立ち並ぶ世界として表現されています。「蓮華」は仏様の悟りの象徴です。美しく、清らかで、泥の中から這い出してすべてにやさしい尊い花です。その蓮華を最高のお宝としてしまっておく蔵が蓮華蔵なのでしょう。その蔵を開ければいっぱい蓮華が詰まっている。火事、地震があっても戦争があっても、今の私に悟りの蓮華を守り届けてくれる蔵の世界に、お念仏することで、入ることができるのです。
(文責 住職)