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住職法語-2024-04

清浄歓喜智慧光  不断難思無称光
超日月光照塵刹  一切群生蒙光照

お彼岸を過ぎると夜が明けるのが早くなり、日没も遅くなり、陽ざしが少し強くなってきたように感じます。近年の異常気象の多くは、私たち人間の文明社会生活が地球環境に影響を及ぼしているのだといわれていますが、さすがに太陽の動きまでは影響してはいないようで、一年の陽の光のサイクルは不変です。(暑さ寒さの季節変化はずいぶん変わってきましたが。)

昔は人間も多くのことが自然のなすがままに生きていくしかありませんでした。雨が降らなければ食べ物がなくなり、飢えて死ぬ。日照りが続けば喉が渇いて死ぬ。寒さが続けば凍えて死ぬ。自分たちの力でできることはとても限られていて、“しかたないな・・まかせるしかないな・・”と、自然に呪縛された無力でか弱い存在だったのだと思います。その苦しみから逃れ、自由を獲得するために、人は思いを巡らし、考え、科学を身につけました。水を貯め、水路を作り、火を使い、服をまとって文明を発達させました。特にここ二百年ほど前から人類文明の発達はめざましく、戦後の発達は特に爆発的です。

私の子供の頃のことを思い出しても、ずいぶん変わったと思います。食べ物も豊富です。着る物も、選り取り見取りです。夏でも冬でも冷暖房が完備され、朝、飛行機で出発して昼には東京につけるようになりました。遠くの友ともテレビ電話で話せるようになり、わからないことはスマホを検索すればすぐにわかります。まだ空飛ぶ自動車はないにしろ、鉄腕アトムの未来社会の多くが現実になっています。いままで不可能と思われていたことがどんどんと可能になっていく中で、どんなことでも人の力で思い通りにしていけるという考えが強くなってきているのではないでしょうか。何かを恐れ、何かに縛られ、何かに従うことが、人生経験としてとても少ない社会が今あるように感じます。

しかしその豊かさと便利さの裏側で、不平不満が溜り、憂鬱さが益々深まり、疑惑と反発が極限まで強まる、とても危険な社会状況となっています。

親鸞聖人は「外に賢善精進の相を現ずることを得ざれ、内に虚仮を懐けばなり。」と述べられ、“人は賢くなったようでも、人の持つ知恵はたかが知れている。偉そうに思い上がって賢そうに、善良そうに、清らかそうに傲慢にふるまうな。私たち人間の本性は嘘っぱちなのだから”と示されています。子供の頃漫画で夢見た未来文明社会が、今現実のものになってきているようですが、鉄腕アトムが持っていた、強く、優しく、たくましい“こころ”は予測に反してAI技術の中では実現されず、逆に豊かな文明社会を生きる私たち人間の心の方が、やせ細り、すさんで、貧しくなってしまっています。

いくら科学や医療が進歩しても、生まれたいのちは老い、病み、死ぬことに人の力はおよびません。そのことを謙虚に受け止め、阿弥陀様の本願力を信じ、お念仏をしっかりと称えることで、今生きる命をよろこび、疑いなく必ず仏となれることを、八百年も前に親鸞聖人は私たちに教えていただいているのです。

(文責 住職)