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住職法語 2024-02

読み上げ

覩見諸仏浄土因 国土人天之善悪
建立無上殊勝願 超発希有大弘誓

 出石の中でも、勝林寺の立っているエリアは古い城下町の町並みが残っており、我が国にとって価値が高いと判断されて、重要伝統的建造物群保存地区に文化庁より選定されています。平成十九年に選定されて以来、地区内住民による町並み保存会が中心となり、官民協力して伝統的建造物の保存並びに町の活性化が進められています。

 私はこの勝林寺の一室で産まれ、育ってきましたが、幼少の頃はまだ道路の舗装もなく、うっそうとした森の中で缶蹴りをしたり、お城山で基地を作ったり、辰鼓楼に入って遊んだり・・・していました。それが小学校の四年生の時、明治百年(一九六八年)を機会に、お城山に隅櫓が建ち、大名行列が復活し、お蕎麦屋さんが増えだし、出石がだんだんときれいになりだしました。

 その時代その時代、多くの人たちがいろいろな思いの中で町の未来を考え、この町の在り方を考えてきました。お蕎麦と観光の街でありながら、そこに暮らす人たちが嬉しく楽しく安心して暮らせる。子供たちがのびのびと出石の文化に誇りを感じながら学び、年老いても自分が愛し育ててきたこの町の中で暮らし続けたい。そんな願いをもって町並み保存の活動を私は今も続けてきています。古い建物一つ一つを見ていても、その建物に込められたいろいろな願いが感じられます。その時自分を雨風から防ぎ、快適な生活を確保するための住居であることは当然でしょうが、それだけではなく子供たち、孫たち、未来の子孫に残したい思いを込めて作られた建造物には、豪華なお屋敷であれ、庶民のあずまやであれ、時代を超えた深い霊性を感じることが多々あります。

 その霊性の根本は、強く深い願いなのだと思います。しかし残念なことに私たち人間の願いは人それぞれで、自分勝手で欲にまみれた狭い了見のものでしかありません。お互いがお互いの育んだ文化を妬み憎み蔑んで、お互いがお互いの大切な建物を奪い、壊し、燃やし尽くしてしまうようなことがおこる願いなのです。  仏様の世界でも、同じようなことが繰り返し起きて来たのだと思います。阿弥陀様は法蔵菩薩の時、長い時間をかけて“覩見諸仏浄土因 国土人天之善悪”(色々な仏様の浄土の国が建てられた理由や、その浄土の様子、浄土におられる人間や神々の善し悪しをご覧になりました)徹底的に行われたことで、個々を乗り越えたこれ以上ない「願い」に到達されたのです。それは“一切の衆生が成仏する”という願いです。いろいろの理屈、困難、限界はあるにしろ、“すべての衆生が仏になる”ことを願い、それができなければ自分も仏にならないと誓われたのです。

 私たちの文化遺産にはいろいろな願いが込められています。それは時には争いを招き、時には差別を生み、時には自然を破壊してきました。しかしその願いの根底にはやはり仏の願いとしての念仏が届いているのです。あらゆる人が疑いなく阿弥陀の願いを聞いて念仏し、仏になることができる願いが伝統的建造物の中からも聞こえてくると思うのです。 

                          (文責 住職)