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五月住職法語

読み上げ

本願名号正定業 至心信楽願為因
成等覚証大涅槃 必至滅度願成就

 コロナウイルスが世界中に広がり、多くの人が亡くなり、多くの人々が苦しみ、世界中が怯えています。六十年余りを過ごしてもう人生の終盤になる中で、大方の出来事は経験し、もう死ぬまで珍しい出来事に会うこともなさそうに感じていましたが、不測の事態は次々に起こるものです。人は経験則の中で、今この状態が起こっている、こういう結果となっているのは、こういう原因で起こってきたのだ、という原因と結果の関係が明らかになっていることは予測ができます。そして、好ましくない結果が目の前にあるならば、その結果を引き起こした原因を見つけ、取り除き改善しようとします。こんなことをすればこんな結果になるという、一度経験した痛い思いは、次の経験に反映されていきます。しかし、その原因が今までに経験したことのないものであればあるほど、対応が分からず、結果を予測できず、不安になります。

 毎日テレビニュースの画面に現れる白黒写真のコロナウイルスは何の因果で生まれてきたのでしょうか。一つの結果には必ずそれを起こした原因がある、何もないところに果は生じないというのが仏教の基本的な考え方です。それに加えて“縁”の重要さを示すのも仏教です。果実は種子から生まれますが、いくら沢山の種があっても同じだけの実がなることはない。一粒の種が土に落ち、水を得て、光に育まれて育って初めて果実となる。一粒の種をはぐくむ土・水・光という様々な縁があって実が成るのです。父の種があり母の胎盤の縁で育まれ、私というものがある。そうした因縁を正しく知ることが大切なのでしょう。

 科学も今総力を挙げてコロナウイルスの脅威に立ち向かおうとしています。地球全体を覆う巨大なデーターにアクセスし、スーパーコンピュータによる高速情報処理によって分析し、原因究明、未来予測、危機回避を日夜試みています。それでも日々不測の事態が発生し、先が見えません。因と果を取り持つ縁を解き明かすには、いくらめざましい進歩を遂げた科学技術でも、今のところその持つ情報の量と処理スピードでは解明に程遠いようです。科学技術が一生懸命努力して因果の法則を解き明かすことも知恵でしょう。知恵とは結果と原因、そしてその間にある複雑な縁を正しく把握して知る力です。仏とは森羅万象ありとあらゆることの因果の道理を把握する知恵を獲得したもののことで、阿弥陀様はこの知恵を獲得して仏になるのに五劫の時が必要であったといわれます。そして一切衆生の救済の因と果を見つけ出されたというのが、お正信偈の今回のこの部分です。“本願名号正定業 至心信楽願為因”とは、名号と信心が原因であることを示し、“成等覚証大涅槃 必至滅度願成就”はその結果一切衆生は必ず仏になるといわれています。この因果の道理を聞かせていただき喜ばせていただくのが私たちの信心であり、科学の知恵を大幅に超えた智慧なのです。 コロナについて日々考えることは大切です。しかし私たちの今生の命は時代・社会・コロナに関わらず必ず死して終わっていきます。まずは先にしっかりとお念仏を称え、本願名号に因り必ず浄土に往生することを聞いていくことが大事なのではないでしょうか。

(文責 住職)