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住職法語 2023-11

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清浄光明ならびなし 遇斯光のゆゑなれば
一切の業繋ものぞこりぬ 畢竟依を帰命せよ

夏の暑さからやっと解放され、十月は爽やかな秋晴れの日が続きました。朝は濃い霧に包まれ肌寒さも感じますが、日がさすにつれ色づきはじめた山から川沿いにアキアカネが降りてきて、小春日和の川面を飛び交っています。ただ、今年は例年にも増してアキアカネに混ざって“カメムシ”が大襲来してきました。

カメムシは触ると、恐らくその臭いを好む人はない嫌な臭いをふりまきます。触ろうと思って触る人はないのでしょうが、洗濯物にくっついていたり、靴の中に入り込んでいたり、カーテンの裏に潜んだり、秋には似合わない厄介者です。なんとかカメムシを撃退する方法はないものかと悪戦苦闘していますが、今日も爽やかな秋晴れの陽光の中を飛び交い、本堂の壁に百匹近く甲羅干ししています。

コロナウイルスの流行と共に生活空間の清浄化が進みました。マスクや除菌グッズと共に、お部屋の空気清浄機の普及も進んだようです。空気清浄機の作用には大きく二種類があって、一つはフィルターで悪い菌をこしとって空気を綺麗にする方法。もう一つはプラズマ(光のようなものだと思いますが・・?)で悪い菌を撲滅して空気を綺麗にしていく方法があります。清浄光明はこのプラズマクラスターなのでしょうか。もちろん違うと思います。阿弥陀様の清浄光明がそんな陳腐なものではないことぐらい誰でも知っています。太陽の光でもアキアカネとカメムシを差別して照らしたりはしない。それでも僕ら人間は、どうしても、好き嫌い、美と醜、善と悪を分けたがります。そして自分にとって嫌なもの、醜いもの、悪いものを滅ぼしてしまおうとします。

1948年(昭和二十三年)から1996年(平成八年)まで日本には優生保護法という法律がありました。優生思想・優生政策上の見地から不良な子孫の出生を防止することと、母体保護という二つの目的を有し、強制不妊手術(優生手術)、人工妊娠中絶、受胎調節、優生結婚相談などを定めたもので、国民の資質向上を目的とした1940年の国民優生法を踏襲したものでした。1996年の法改正で優生思想に基づく部分は障害者差別であるとして削除され、法律名も「母体保護法」に改められたが、ここ最近人類の進歩と発展の中で、この優生思想の愚かさが、恐ろしさが、邪悪さが学ばれず、悲惨な世界の状況が繰り返し広がっています。人類史上最も悲惨な優勢思想の歴史は、つい九十年前のユダヤ民族に対する民族浄化でした。戦後私たちは深い悲しみと反省の中で学び、少しは賢く進歩してきたつもりでした。しかし、いま世界の現実は戦前以上に愚かで極めて危険な状況となってい ます。

阿弥陀様の清浄光明は、よい命と悪い命を別け隔て、選別し、害虫を駆除し、不都合な民族を根絶やしにし、自分にとって爽やかで心地よい生活空間を作り出すようなものではありません。逆に自分勝手で、傲慢で、残虐な人の濁った自力の計らい(はからい)を、一切の命の尊さと共に生きる私の命であることを気付く仏の智慧を私の中に育む光です。

(文責 住職)